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辻整形外科クリニック  PAINFUL LESION

TSUJI ORTHOPAEDIC INSTITUTE


臼蓋回転骨切り術 RAO

 臼蓋回転骨切り術 (RAO)の術後で、画面の左の関節は術後間もない時期で、画面の右は約2年経過したところです。  1956年に日本では「先天性股関節脱臼に対しての観血的整復術」として西尾が臼蓋回転骨切り術 (RAO)の原型としての手術を行いました。一方、「臼蓋形成不全に対する手術療法」としては、アメリカで Eppright が Dial Osteotomy という寛骨臼の回転骨切り手術を行い、1975年に JBJS(整形外科の権威ある専門誌)という学術誌に発表しました。1978年には Wagner が臼蓋形成不全に対して、球状のノミで骨切りを行う Sherical Acetabular Osteotomy という手術を成書に記載しました。1982年には、田川先生が、特殊なノミ(右の写真)の開発と、前方と後方の二つのアプローチや皮切の長いオリエール変法を用いたのち、一皮切で股関節に到達する方法を開発し、良好な成績を得ることを発表しました。二ノ宮先生は1982年に日本の学会誌、1984年にアメリカのJBJSに発表し、各地で手術を行って日本に広く普及させました。2006年3月25日シカゴで行われた Hip Society では、1984年より始められ1988年に Clin Orthop という学術誌に掲載された Ganz Osteotomy (または Bernese periacetabular osteotomy (PAO))という手術がよいと発表されています。Eppright の Dial Osteotomy の原法では骨切りが薄すぎ、Ganz Osteotomy では骨切りが大きく骨盤内から骨切りを行うため骨盤内臓器への影響(不妊等)や、PAOの術後出産する場合に前置胎盤や骨盤位(逆子)や帝王切開の既往歴がなくても産婦人科医が出産に際して帝王切開を選択する確率が上がることも懸念されます。当院では、Eppright の原法より厚く骨切りを行い、名古屋大学の長谷川先生考案(1989年)の偏心性の骨切り術を用いるのがよいと考え、金沢大学での工夫点も加えて臼蓋回転骨切り術 (RAO)を行っています。金沢大学では骨盤骨折手術の際に、ピッツバーグ大学に留学した沢口先生はミアーズ先生の行っていたメルセデス皮切で骨盤の手術を良好な視野のもとに行い、同様にして、臼蓋回転骨切り術 (RAO)のためには1885年からあるオリエールという小さな皮切(原法)でも臼蓋を出すことが可能でした。また、チャンレイ(1961年)やミアーズは大転子という場所を一旦切離して臼蓋を見やすくしていました。皮膚の切開はオリエール、臼蓋への到達と大転子の固定方法はミアーズ・沢口の方法にて手術を行い、当院では臼蓋回転骨切り術 (RAO)の手術は、従来普及していた方法に比べ、関節の侵襲が1ヶ所と少なく、手術の傷も半分弱の長さですむようにしています。以下は、従来の日本で多く普及している手術方法と、当院で行っている手術方法の術後の手術創の写真です。



上の写真は、東大の二ノ宮先生が全国各地で手術を行って、日本に広く普及している手術方法による臼蓋回転骨切り術 (RAO)の手術創の写真です。この手術以前は、股関節の前方と後方の2ヵ所に皮切を行っていたので、さらに、大きい傷でしたが、二ノ宮先生は、改良した手術方法を全国に実践指導されていかれました。

MIS臼蓋回転骨切り術(RAO)


当院で行っている臼蓋回転骨切り術 (RAO)の手術創の写真です。ごらんの通り、手術創の長さは半分以下です。若い女性の患者さんにとっては、傷が小さいことは美容的にも大変重要なことですが、実は、単に傷が小さいことだけが長所というのではなく、この手術は、臼蓋回転骨切り術 (RAO)のMIS最小侵襲手術(極小侵襲手術)であり、股関節周囲の筋肉や関節周囲組織を温存し、術後の早期の回復に大きく寄与しています。当院でのベッド上安静臥床期間は3日間に短縮され、手術後4日目で車イスに乗ることができます。手術を受けられた患者さんの体験ホームページによく書いてあるように、ベッド上で排泄する苦痛もほとんどありません。



写真は、単鋭鈎(ボーンフック)で臼蓋(寛骨臼)を回転しているところの実際の手術写真です。臼蓋回転骨切り術 (RAO)のMIS最小侵襲手術(極小侵襲手術)でありながら、回転する臼蓋はこのようにはっきりと直視下に見え、寛骨臼の充分な回転と正しい設置固定が可能です。



◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の目的(長所)◆
臼蓋形成不全の患者さんに対して臼蓋回転骨切り術(寛骨臼回転骨切り術)を行います。臼蓋形成不全があって悪い方の股関節や大腿部や膝に痛みがくる人に手術を行って、現在の痛みを取ることが重要な目的です。また、臼蓋形成不全を放置すると大腿骨頭と臼蓋の関節軟骨がいたんできて、軟骨がすり減ったり骨関節の破壊が進行して股関節痛が増悪し、その後、変形性股関節症という病気に移行します。この変形性股関節症になる確率を下げる事も、もう一つの重要な目的です。臼蓋形成不全の程度はCE角が0°〜20°が私はよい適応と考えています。CE角は病院で測定しますが、臼蓋形成不全の患者さんでは臼蓋縁が頭側にはね上がっていることが多くあり、荷重がかかっている部位を正しく知る必要があります。 変形性股関節症が重症になると人工股関節形成術を行う必要性が出てきますが、その確率は、臼蓋形成不全の程度(CE角の程度)により25〜75%程度です。臼蓋回転骨切り術々後に経過が順調な場合には、自分の骨関節で股関節を治すことができ人工関節を入れなくてすむという利点があり、人工関節を要する確率が5%程度以下に下がることを期待しています。関節裂隙が正常で大腿骨頭が球形であることも、この手術がうまくいくために、必要な条件です。また、手術の適応年齢は17歳頃(成長を示す骨端線が閉じてから)から35歳頃までがよい適応で、30歳までが治りやすい時期だと思います。

◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の手術方法(専門的)◆
写真でお示ししたオリエール皮切という皮膚切開を行います。これはRAOの手術の中では最も傷の小さいMIS手術ともいえる手術です。皮下の大腿筋膜も同様に切開し、中殿筋・小殿筋の停止部の大転子というところの骨をいったん骨切りします。小殿筋と関節包の間を注意深く止血(仮骨形成防止目的)して剥離しながら、中殿筋・小殿筋を一塊として頭側に翻転していくと、回転骨切りを行う臼蓋縁に到達します。股関節後壁部を用手剥離し大坐骨切痕を確認し、短外旋筋群停止部の頭側部はわずかに切ることもありますができるだけ残し、坐骨基部も見えるようにします。次に、大腿直筋を前方へ剥離して腸腰筋腱も前方へよけ恥骨枝基部に到達します。(RAOの通常切開手術を充分に経験していない場合は、この前方の処置は小切開ではやや困難と感じます。)術後の早期回復を得るため、大腿直筋の起始部は下前腸骨棘から切離せずに回転する寛骨臼に付着したままにしておきます。曲率半径50mmの田川式弯曲ノミで骨切りを行います。小切開手術では、前方の処置をしている時に恥骨部の骨切りを先にしたくなりますが、寛骨臼が割れたり回転の妨げとなる凸部ができたりしないようにするため、最初のノミを抜くのが大変でも、田川の原法通り臼蓋上縁の骨切りから始めた方がいいと思います。恥骨・坐骨の骨切りが完全なら寛骨臼は容易に回転できます。回転するとき、下前腸骨棘を外側に出すと術後のX線正面像がよく見えますが、後縁も充分に回して荷重部分の面積を最大限にすることが将来の変形性股関節症発症防止に特に重要です。回転して骨欠損部があれば、骨盤内方の自家骨・−85℃凍結処理同種骨・ハイドロオキシアパタイトなどの人工骨を用いて欠損している部位を補填します。回転した寛骨臼と腸骨の段差をなくしてなめらかにするために、骨移植をした方が中殿筋に骨の角が強く当たらず術後の外転筋力の回復によいと思います。生体内吸収性のスクリューを回転した寛骨臼の固定に用いて寛骨臼をしっかりと固定すると早期回復を得られます。生体内吸収性スクリューは目的固定部位の骨固定がしっかりしていれば破損しません。(当院では上記の通り、短外旋筋群と大腿直筋を切離しないのと、寛骨臼をしっかりと骨盤に密着固定するので、早く離床することができます。)

◆臼蓋回転骨切り術(RAO)の問題点(短所)◆
臼蓋回転骨切り術の合併症としては、@神経麻痺・血管損傷、A脂肪塞栓・肺梗塞、B寛骨臼フラグメントの骨壊死、C感染などがあります。@臼蓋回転骨切り術の骨切りは手術している視野からは見えない骨盤内盤に達するので、見えない場所で神経・血管損傷による神経麻痺や大量出血が起こる場合があります。当院ではこの危険性を最小限にするために、透視装置で術中コントロールを行って手術を行います。A骨切りを行う手術であるため、まれに脂肪塞栓・肺梗塞が発生することがあります。B回転した寛骨臼骨片に充分な血流が来なかったり荷重が過大である場合に、回転した寛骨臼の骨壊死が発生することがあります。荷重を慎重にすることによって壊死した骨の再生を待ちますが、関節破壊が進行する場合や股関節痛がとれない場合は、引続き人工股関節形成術を行わなければならないことがあります。肥満があったり、35歳を過ぎて高齢であったりするほど、その確率は上昇します。また術前に、大腿骨頭が球形でなかったり、手術前に変形性股関節症が進行し始めていたり、手術を受ける時期が高齢であったりするほど、術後の変形性股関節症の進む確率が上がり、35〜40歳を過ぎて手術を受ける場合などは20〜40%程の悪化率になります。C手術では充分に気をつけても感染は避けられない問題です。感染を起こらないようにするために、当院では臼蓋回転骨切り術も人工関節手術なみのバイオクリーンルームで手術を行い、手術中に手術創は抗生物質入りの大量の生理的食塩水で充分に洗浄し、手術の前後に抗生物質も投与します。クリーンルームを作っても大病院で手術場が2階・3階にある場合は、人の出入りが多く患者の移送搬入も頻繁なのでクリーンレベルの実測値が落ちます。また、手術室と前室のみクリーンルームになっていて、手術室のドアの開閉の度にクリーン度が落ちることもることもしばしばです。当院での対応は、手術室内の空気の出入りを考えて、一般の方の出入りを制限した5階に手術室を設け、そこを手術室と器材滅菌室の専用フロアとし、全室(手術室2室・滅菌洗浄室・手術室の廊下・手術患者搬入用の廊下)すべてをクリーンルームとし、どこの病院よりもクリーンレベルが上がるように工夫して設計し、感染防止の努力を行っております。

◆自己血輸血について◆
術前に貯血する自己血は400mlを2回採血します。私は自己血を回収するCBCコンスタバック・ドレーンという器具を1988年に最初にメーカーに輸入依頼し、薬事承認された3年後の1991年から今では常識になった術後自己血回収術を日本で最初に開始し、他家血輸血を回避して臼蓋回転骨切り術を行っています。

◆骨切り線について◆
Eppright の Dial Osteotomy では関節裂隙より1cmの部位で球状の骨切りを行いますが、正確に関節軟骨面をいためずにこの骨切りを行うには極度の技術を要します。また右の写真の Ganz Osteotomy では、日本で行われている臼蓋回転骨切り術(RAO)より骨切りは大きく行われ、しかも、骨盤内壁から手術を行いますので、大手術でさらなる技術を要します。
骨盤の形状はやや複雑で不慣れな方には多少わかりにくいので、骨切り線を骨盤モデルで示して、いろいろな角度から写真撮影してみました。
赤い線は当院で理想と考える骨切り線です。緑の線は二ノ宮先生が臨床雑誌整形外科に発表された骨切り線です。寛骨臼底が浅い場合は当院でも二ノ宮先生の行っている通りに骨切りを行います。ご覧の通り、二ノ宮先生の骨切り線は、アメリカで評価が高まり手術数が増えつつある Ganz の骨切り線に近い線ですが、私は二ノ宮先生の骨切り線の方が球状でよりよい骨切り線だと考えています。
寛骨臼内壁に余裕がある場合は、私は Eppright の Dial Osteotomy に近い赤い線で骨切りを行います。技術的にはより困難ですが、種々の合併症防止のため骨盤深部内壁にノミを貫通させない利点があります。

まず、AP・PA・側面・頭側・尾側からの写真です。

AP PA 外側
内側 頭側 尾側


わかりやすいように周囲からの写真を撮影しました。



番号ラベルは私が一番よいと考えている骨切りの順序です。


Ganz Osteotomy (PAO) と比較した場合の 臼蓋回転骨切り術 (RAO) の長所:
@臼蓋回転骨切り術 (RAO) は球状の骨切りなので、骨を充分に自由な方向に回転でき、関節の後方まで被覆できる(最近の写真参照)。 一方、PAOでは骨頭の上方の被覆は出来るが後方はむしろ内側に回転し、骨頭荷重部の被覆がPAOでは不十分であるので、将来悪化するリスクがより高い。 APAOでは骨盤内方から大きく骨切りするので、キアリ骨切り術と同様、不妊や帝王切開の必要性が増大するが、臼蓋回転骨切り術 (RAO) では正常分娩が可能である。


References:
1. Eppright, RH: Dial osteotomy of the acetabulum in the treatment of dysplasia of the hip. J Bone Joint Surg, 57A: 212-214, 1975.
2. Wagner H. Osteotomy for congenital hip dislocation. In:The Hip. The C.V. Mosby Company, Saint Louis 1976: 45-66.
3. Wagner H. Experiences with spherical acetabular osteotomy for the correction of the dysplastic acetabulum. In: Wei UH, editor Progress in orthopaedic surgery. Vol 2. Acetabular dysplasias in childhood. New York: Springer; 1978: 131-145.
4. Ninomiya, S; Tagawa, H: Rotational acetabular osteotomy for the dysplastic hip. J Bone Joint Surg, 66A: 430-436, 1984.
5. Ganz, R; Klaue, K; Vinh, TS and Mast, JW: A new peri-acetabular osteotomy for the treatment of hip dysplasias: technique and preliminary results. Clin Orthop, 232: 26-36, 1988.


<ワンポイント・アドバイス>
インターネット上や実際の臨床で、小学校入学前の幼児期に股関節の手術を受けた方がいいのかという相談がよくあります。先天性股関節脱臼が整復されないままで脱臼している方は、手術を受けずに脱臼したままでいると、将来、臼蓋回転骨切り術 (RAO)にしろ人工股関節形成術 (THA)にしろ手術が大変困難になりますので整復を行う手術を受けたおいた方が、後の17歳を過ぎてからの臼蓋回転骨切り術 (RAO)や40歳を過ぎてからの人工股関節形成術 (THA)などの手術が容易になります。また、臼蓋形成不全のみで股関節脱臼を認めない患者さんは、大きくなってから臼蓋回転骨切り術 (RAO)を受けられても、手術成績が大変よいので、最近では、脱臼していない子供は高校生頃以降で股関節が痛くなってから手術をすればよいと考えている整形外科医が増えてきています。


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